RCS 発表論文 No.002
2.4GHz帯を用いた場所検知システムの開発
1. はじめに
交通バリアフリー法の施行後、国土交通省主導で歩行者ITSの開発など自律移動支援システムの開発が進められており、その中で歩行者の現在地および向きを高精度で検知する技術の確立が待望されている。
今回、2.4GHz帯を用いたアクティブタグをエリア内に離散的に設置し、当該アクティブタグからの電波を受信することで、±10cmの精度(理論値)で場所を検知できるシステムを開発したので、その概要を報告する。
2. システムの概要
2-1 アクティブタグと端末の構成
アクティブタグの構成を図1に、端末の構成を図2に示す。アクティブタグには4基の円偏波指向性アンテナが組み込まれており、それらのアンテナを周期的に切替えながらスペクトル拡散された無線信号をバースト状に送信する。そして1基のアンテナが接続された携帯端末でその信号を受信する。
本システムでは、複数のアクティブタグがエリア内に離散的に配置されるためバースト状に送信する際にアクティブタグ間の同期をとる必要があり、ZigBeeによりマスター局から同期信号を順次送信することとしている。
2-2 アクティブタグの設置方法と検知精度
図3に、アクティブタグと携帯端末の位置関係を示す。
アクティブタグに組み込まれた4基のアンテナは指向性が下方になるよう設置する。ここで、携帯端末が地上1mに、アクティブタグがその上方H(m)の位置に設置されているものとし、アクティブタグの真下からの距離をL(m)、検知した場所をL±儉(m)とし、方向の測定精度を±1°とすると、検知精度±儉は、±儉=H/tan(α±1)から求められる。場所の検知精度(理論値)の計算結果を表1に示す。
L=0m | L=1m | L=3m | L=5m | |
---|---|---|---|---|
H= 5.0m | ± 4.3cm | ± 4.5cm | ± 6.0cm | ± 8.9cm |
H= 7.5m | ± 6.5cm | ± 6.7cm | ± 7.1cm | ± 9.5cm |
H=10.0m | ± 8.2cm | ± 8.8cm | ± 9.5cm | ±11.0cm |
2-3 検知精度の向上策
2-3-1 マルチパスおよびハイトパターン対策
屋内の閉じた空間あるいは屋外のビル陰等では、床面、道路面などからの反射により、マルチパスあるいはハイトパターンにより方向の検知に大きな誤差を生じる場合がある。 その対策として、アクティブタグに組み込まれた4基の円偏波指向性アンテナを周期的に切替えながら無線信号を発信し、これらの4基のアンテナと携帯端末間の相対距離を検出し相対距離が比較的に短かく検出されたアンテナからの無線信号を選択して用いることにより方向を検知することとした。
3. 機能設計
3-1 送信信号の構成
送信信号の構成を図4に示す。
アクティブタグが送信する信号には、システム同期信号、場所コード(UCODE)、アンテナ情報および測定信号の4種類を設けている。なお、チップ速度は2MChips/s、データ伝送速度は250kbpsである。
3-2 アクティブタグ間の同期と送信信号発信間隔
複数のアクティブタグが接近して設置された場合、発信が競合しないようにマスター局から100ms周期で起動信号を発信し、周辺のアクティブタグに順次伝送する。各アクティブタグは、起動信号受信時に自局の発信タイミングを確認し、決められたタイミングで送信信号を発信する。なお、上位のアクティブタグからの起動信号が途絶えたときは、自局がマスター局となり100msの間隔で起動信号を発信する。
3-3 方向と相対距離の測定
図5に示すように、東西南北の方向に4基の円偏波指向性アンテナを4分の1波長(約3cm)間隔で組み込んだアクティブタグからLm離れた携帯端末を見たときの方向を角度αとして測定すると、
α=arcTan(Dm/Lm)=arcSin(儉cm/3cm)
となる。ここで、儉cmは,アクティブタグに組み込まれた複数のアンテナの内、特定の2基と携帯端末との間の伝搬路長の差である。
特定の2基のアンテナ間で搬送波の位相差を測定し、位相差が刄ニであったとすると、
儉cm=刄ニ/(2π/λcm)
となる。2.4GHz帯ではλ=約12cmであるので、
α=arcSin(2刄ニ/π)
となり、測定可能範囲-π/2<刄ニ<π/2において、角度α=刄ニラジアンとなるため、アクティブタグの方向が検知できる。なお、位相差刄ニの測定能力は、10ビットのA/D変換器を用いた場合で±(90°/512)≒±0.2°程度である。また、相対距離を測定する場合には、アクティブタグに組み込まれた特定の2基のアンテナ間で拡散符号の位相差刄ウを測定する。距離差を儉mとすると、
儉m=(刄ウ/π)×(C/freq)
から求めることができる。ここで、C=光速,freq=拡散符号の(チップ数/2)である。
3-4 場所の検知の方法
UCODEおよびアンテナ情報から取得したアクティブタグの場所、アクティブタグのアンテナの高さ、X軸の方向、X軸とY軸の傾斜角度などのデータおよび携帯端末のアンテナ高さ(デフォルト値1m)から、携帯端末の現在地を検知することができる。場所の検知は、標準として携帯端末側で行なうが、逆に、携帯端末から測定信号を間欠的に発信し、アクティブタグ側で携帯端末の場所を検知し、RS232C経由で検知データをネットワークに出力することもできる。図6から、
囘(X)=(H−h)×Tan{刄ウ(X)}
囘(Y)=(H−h)×Tan{刄ウ(Y)}
となり、アクティブタグの真下の場所を(X1,Y1)とすると、携帯端末の現在の場所(Xx,Yy)は、
Xx=X1+囘(X), Yy=Y1+囘(Y)
から検知できる。
4. むすび
以上、2.4GHz帯を用いたアクティブタグをエリア内に離散的に設置し、当該アクティブタグからの電波を受信することで高い精度で場所を検知するシステムについて、その概要を報告した。
今後は、拡散符号のチップレートが8Mchipsps以上のZigBee用ICチップを採用する等、更に改善を続けるとともに、実フィールドでの精度検証を行っていく予定である。
参考文献
- Hironori Kawano, and Minori Kawano, Development of a Pedestrian Navigation System working on the 2.4GHz Band, 11th World Congress on ITS Nagoya, Aichi 2004, Japan